心あたたまる織田作之助賞受賞作!
原作「通天閣」は、庶民の街新世界を背景に、笑いあり、涙あり、切なくとも、ホットでほかほか、心あたたかい西加奈子氏の本音いっぱい、筆冴える名作です。庶民の街、下町の代表である新世界を舞台に、男女二人の主人公を中心に、市井の人々の生身の活気と哀愁に満ちた人間模様を、愛情深く且つ軽妙洒脱に描かれています。とりわけ、幼い子供に対する深い想いに魅せられ、ぜひ舞台に描きたいと強く願い脚本にしました。
「通天閣」に描かれた世界は、新世界に限ったことではありません。それぞれがそれぞれを思いやり支え合うことのできない今のこの世の中、幼い者、弱い者への気遣いすらできない心荒んだ世の中のあちこちにあるシーンです。(ふと今、日大アメフト部のことを思い浮かべてしまいました……)
この名作を元に、今のこの時代、誰もが抱く孤独ややるせなさ、慟哭や悲しさ、辛さを笑い飛ばす強さや逞しさ等々、人情味あふれる関西弁ならではの生き生きとした舞台に仕上げ、何とも愛おしいラストに向けての一条の光に、誰もが喜びを胸に劇場を後にしていただきたいと願っています。
― おおやかづき
通天閣そびえる新世界を舞台に、主人公男女二人を中心に心厚く描く人間模様。 一人は、若かかりし頃に子持ち女性と結婚するが別れ、今は頑なに世間との関わりを最小限に暮らす中年男。女性への愛を貫けなかったことだけでなく、幼い連れ子に対し何の優しさも愛情も示せなかった思いが心の傷となっている。
もう一人は、ミナミのぼったくりバーにチーフとして勤める若い女性。同棲していた彼の帰りを待ち続けていたが振られ、泣き暮す日々。男女ともに愛を求めつつも報われず、生きる希望を見失っている。 男が勤める工場にドモリの新入りが入社。中年男は、何故かこの臨月の嫁がいる新入りに心を許 し始め、新たな生命の誕生に頑なな心が溶け始める。
ぼったくりバーのバカ騒ぎの中で、女はただただ空しさに襲われ、泣き明かした挙げ句、店を辞めたいとママに告げる。ママは女を通天閣に誘い、大阪の街を見下ろしながら、自らの体験を語り励ます。女はふと、次から次に男を替えてきた母親が、子供の前では決して涙を見せなかったことを思い出す。
そんな折、世間から見下され救いのない惨めなオカマ男が通天閣からの身投げ騒ぎを起こす。 野次馬たちが騒ぐ中、救いを求めるオカマ男の想いとも絡み、交差する男女二人の想いは、ちらつきはじめた雪に浄化され、浮かび上がる通天閣の姿に生きる希望を見出す。
2018/09/06 | 通天閣 | 兵庫県立芸術文化センター |